公開:大工書
ここに公開する大工書のテキスト化は住宅総合研究財団の研究助成「近世ならび近代初期の建築用語に関する基礎的調査研究」(主査:源愛日児 武蔵野美術大学教授)の一環として行った。本学でテキスト化を行う対象は江戸幕府小普請方・溝口林卿の記した大工書二編(『紙上蜃気』『方圓順度』)である。
溝口林卿とは、宝暦8年(1758)の寛永寺本坊修理にも参加したという江戸幕府の小普請方である(『宝暦録』)。溝口は晩年に至るまでに測量術で有名な清水流町見術を学んだとされ、さらにそれを独自の幾何学的計算法へと展開したとされている。生没年未詳、文政三年(1820)以前没、五十余歳の年齢であり、晩年の溝口は京都に住し、その和算家としての名声は関東にまで及んでいたという。和算家としての門人は村田佐十郎光窿など多数いたとされており、これを溝口流といい、村田の門人・吉田重矩は文政三年(1820)『溝口流規矩術図解』を著し、その術を大成したという。
現在確認されている溝口の著作は以下のものがある。
『匠家雛形』 延享4(1747)
『木匠言語』 宝暦7(1757)
『紙上蜃気』 宝暦8(1758)・寛政2(1790)公刊
『尺算新書』 寛政1(1789)
『方圓順度』 天明8(1788)参考文献:『日本建築古典叢書・堂宮雛形建仁寺流』河田克博 編 大龍堂1988・『明治前日本数学史』日本学士院
『和算研究集録』林鶴一遺著刊行会 編 東京開成館・『国書人名辞典』『国書総目録』岩波書店大工書データ
『紙上蜃気』(しじょうしんき)東都工匠長官 溝林卿 寛政2年(1790年)公刊本
『方圓順度』(ほうえんじゅんど)東都工匠長官 溝口内匠源林卿 天明8年(1788年)
おまけ
『尺算新書』(しゃくさんしんしょ)東都大匠 溝口内匠源林卿 寛政元年(1789年)
この書は建築に関する項目のみテキスト化を行います解説『方圓順度』『尺算新書』
上記二書の建築に関連する項目について本研究室の修論生・田中が解説します。
元ネタを探ったり、この書の意味を考えたり、以降の影響を探ったりする予定。(随時追加・更新)パラパラマンガ『紙上蜃気』(GIF:584 k)
日本最初の建築辞書『紙上蜃気』は、言葉の意味を記さず、建築用語のみを羅列したものです。
一方、蜃気楼とはその昔、海中の大ハマグリ(?)が吐く息によって楼台が現れるとされていました。
この『紙上蜃気』というタイトルは「紙の上に建築用語を羅列することは蜃気楼のようなもんですよ。」という意図がありました。
そこで、表紙絵の画像と本文の画像を使って、そのさまを視覚化してみました。注意!このページ以下のページの内容についての御意見・御指摘はすべて私に御連絡下さい。