当時、大工の間では差金を用いた規矩術(きくじゅつ:規=ぶんまわし≒コンパス/矩=さしがね)という立体幾何学が用いられていたが、本書序文ではその規矩術に規術が抜けていることが指摘され、その補完を行うことを主な目的としたものである。したがって内容は規術を中心としている。具体的には正多角形の作図法、側円(≒楕円)の作図法、図形の等積変換などの幾何学を中心とし、乗法、除法、開平方なども規術のみで行われている。本書は一般的には和算書として扱われてはいるが、その内容の幅は広く、カメラオブスキュラ、測量術、建築細部作図法、日時計、地球儀の書き方等を含む(下図参照)。所蔵は東北大学(元・亨の二冊、縦型本)、東京大学(乾・坤の二冊、横小型本)、日本学士院(一冊、縦型本)であり、別名を『溝口流規矩術全書』(乾・抻の二冊、横小型本、日本学士院蔵)ともいう。テキスト化は最も詳細に記された東北大蔵のものを行う。尚、建築に直接関連する内容としては、大斗大サヲ極テ十二角面之四角ニ當ル規術・十二角圓中ニ三斗ヲ出ス規術・{カラ}博風之反規術・軒之反或鳥居笠木等之反物規術・{カラ}博風規術・唐破風茨鰭・勾配違宇立高ヲ知矩術・擬宝珠規術・繁物垂木割矩術が含まれている。
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序文は返り点と送り仮名が振られた漢文である。しかし、この返り点は明らかに間違っている点が見られ、また、異本はすべて白文であることから、序文は白文で記すこととする。本文は書き下し文と、漢文(送り仮名・返り点付きのもの)が混じっている。この漢文もまた明らかに返り点が間違っている個所があるが、読みやすくするために可能なかぎりすべて書き下した。本文は図版が中心の書であり、本文の文章はその図のタイトルと、図ついての説明が主である。図版と文字が混在しているものも多数あり、構成を明らかにするために図版へのリンクを行う。以下、詳細な記載方法を示す。
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