紳士服
1927年
多方面の事象に精通し、機知に富んだウィーンの建築家アドルフ・ロースが、ルネサンスシアターの昼の講演で「紳士服の原則」をテーマに存分に語った。
今日男性が身につけている服装は、つまるところイングランドとスコットランドの農夫の服装に由来しているのです。16世紀にイタリアがモードの世界支配を確立した後、フランスが登場して、太陽王ルイ14世の下、その覇権を手中に収めます。その後、18世紀になって今度はイギリスが男性モードをリードしていきました。
ゲーテは自分の小説『若きウェルテルの悩み』の主人公ウェルテルに現代のイギリス人男性の服装、つまりイギリスの農民の服装を着せています。皮をなめした膝が見える乗馬ズボンをはき、円筒状のクラウンが固定された背の高いシルクハットをかぶり、馬に乗っている。今日ではこの乗馬用ジャケットが礼服のようになってしまった。服というものは礼装化したり、着る機会が減ると死んでしまうのです。19世紀になるとスコットランドの男性服の波がヨーロッパ全土を覆いました。ひとは馬に乗らなくなり、隊列を組んで行進するようになりました。そこでいかにも重々しいひも靴が導入されることになりました。ここでひとつ大胆な仮説を申し上げましょう。ドイツ人が先の大戦で負けたのは、ひも靴の代わりに長靴をはいて行軍したせいで、状況に合わせて迅速に前進できなかったからというものです。敗戦の責任は文字通り靴にあると考えたわけです。ほかの国ではゲートルが主流になっているというのに、なぜわがオーストリア帝国軍はいまだ長靴を履かされているのでしょうか・・・。
講演後、活発な議論が続いた。テーマは「寝るときは、なぜナイトガウンではなくパジャマがいいのか」。ロースはこう説明した。
不眠に悩まされているひとは、不眠解消のために服を着たまま食後すぐに寝るよう習慣づけられます。服を着たままベッドに横になれば、ひとは簡単に眠れるということです。だからパジャマがいいのです。昨今、現代の神経質な人間たちに快適さを与えてくれるフォルムが続々と生まれています。例えば燕尾服が支持されている。着心地がいいからです。しかし古代ローマ人が着たトガはどうでしょうか。これは私たちの気質には無理があります。色味がないメンズの服を変革しようと、「ロンドンから離れよう」と呼びかけるパリの大衆演劇作家モーリス・ド・ウォレスは僕には滑稽にしか思えません。アメリカの世界支配によって遅かれ早かれオーバーオールが取り入れられるでしょうが、それもいずれ礼服扱いされるようになってしまうのでは・・・
ロースは即興でその場の聴衆を楽しませ、いちいち納得させていくのである。最後は大きな拍手だった。次回は婦人服のモードについて力強い言葉を吐いてくれないだろうか?
J.E.
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