国家経済
”新8時新聞”1919年2月24日
国家経済論の根本原理のひとつに、誰もが知るこんなテーゼがある。
一番大事なことは、とにかく事件が起こること!
庶民が一杯やるいつもの酒場には、この考えに賛同する連中がかならずいるものだ。この連中は、雪が降れば「やっと仕事が入る」と喜び、火事が起これば「ありがたい!これで金が入る」と言っては喝采する。どこかで大地震が起きて町が壊滅しようものなら、仕事と幸福がいっぺんに転がり込み、町全体には豊かな暮らしがもたらされるというわけだ。
一番大事なことは、そう、事件が起こること!
これに賛同するのは何も庶民ばかりではない。役人たちの中にも意見を同じくする者がいるのである。常に新しさが求められるせいで、寿命が短くなった手工業製品のあり方を私が問題にして、貴重な材料と労働力を費やして作られたものであろうとも、時間が経てば時代遅れになって見捨てられるのは世の習いであり、作られた物は早々と溶かされ、塗りつぶされ、火に投げ入れられるだけだと私が批判したところで、「だからこそ事件が起こることを、われわれは喜ばなければならない」という結論に飲み込まれ、結局はこのテーゼを補完することになってしまう。
そして実際に今、事件が起こりそうな勢いなのである。銀行協会がフィッシャー・フォン・エルラハの傑作であるハンガリー守衛隊の館[1]を、賃貸住宅建設のために取り壊すと発表した。昨日報道を目にしたばかりだから間違いない。確かに住居不足は深刻であり、ウィーンの町の美観を気にしている場合ではない。その流れの中でフィッシャーの建物が取り壊されることになったのである。
敬愛せる銀行協会殿、いっそのこと王宮を取り壊すというアイデアはいかがですか?さらなる建設用地のお問い合わせは、国の歴史記念碑保存担当までお気軽におたずねください。
こんなジョークもジョークで終わらない勢いである。オーストリアの国家経済の根本原理は、飲みの席でも、官庁でも、銀行でも皆同じである。
一番大事なことは、事件が起こること!
(865文字)
- ハンガリー近衛兵の館(Palais Trautson)は1712年にフィッシャー・フォン・エルラハ(Johann Bernhard Fischer von Erlach, 1656-1723)の設計に従ってトラウトゾン候(Trautson, Johann Leopold Donat Fürst, 1659-1724)が建設した館。1760年にマリア・テレジアがこれを購入してハンガリー近衛兵の館とした。現在はオーストリア連邦司法省(Bundesministerium für Justiz)の事務局となっている。