かたちとコンテクスト−引用による都市連鎖的ノート

ここでは巷に溢れる名キーワードの、とりわけ都市連鎖的読み方を紹介する。特に事物が成立する上での基本概念「かたちとコンテクスト(キーワード3)」は今回の主人公であり、論理の導き役である。これらの引用を活用した上で、後に都市連鎖を《詠む》にあたっての、さらなる拡張キーワードを提案してみたい。

●キーワード6 ティポロジア
超歴史的概念としての類型(タイプ)を基本にした街区再生手法(tipologia edilizia)。70年代のイタリアの歴史的街区再生における画期的手法。
「変化の条件にはタイプ(類型)がある。あらゆるほかの文化活動におけるのと同様に建築においても、人間は、類似の問題に関してすでになされた解決についての記憶を通じて、経験を役立てるのである。このような経験は、統一的な最終目標によってしたがって様々に異なって構成される概念としてこの文化領域、つまり真の建築的有機性の中に先験的に存在する。」(ジャン・フランコ・カニッツィア)」(陣内秀信『イタリア都市再生の論理』より引用)
ティポロジアが現在においても有効なのは、歴史価値的保存一般に対する根底的批判が隠されているからである。ティポロジアによる批判の矛先は、歴史的建造物の保存手法一般に向けられていた。それは日本でもなお主流である歴史的に貴重な建造物のみの保存、あるいはファサード保存である。ティポロジアの推進者たちは、これらを文化的アリバイとして批判した。しかしこの批判にはさらに大きな問いが隠されている。歴史的価値は、いったい誰がいつどのような理由において決めることができるのかという難問である。歴史的価値は、現在の私たちからしか決めることができない。つまり隔離され、あがめ奉られた「過去」とは、「現在」の私たちが自らの都合で決めているのである。しかし両者に属するのは共に現前する事物である。事物をこのような不自由な枠組みから救い出すには、両者をつなげるティポロジア−タイプという超歴史的な視点を設定する以外に無い。そんな彼らが武器としたのは、ある街区の部屋割りから都市配置までを一元的に切断した連続平面図であった。このとき通常の都市−建築という階層は消えさリ、潜在する層としての各時代の平面類型が相互に干渉し、変容し、転用されていく様が映し出されたのである。
(図)

(中谷)


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