セベラルネスと層組−都市連鎖詠みのための拡張キーワード

ここでは、先にあげた引用ノートを基本にしつつ、都市連鎖詠みのための拡張概念を提案する。その拡張性は、特に、事物の時間的変容を可能にするメカニズム解読とその実体的拡張(デザイン)に関するためのものである。

●キーワード9 セベラルネス
事物の連鎖を可能にする、そのかたち的性能一覧。
都市はそのタイムスケールが人間のライフスパンを遥かに上回る。そのため、ある都市構成物がいったいどのような意味機能を担っていたのか、そういったコンテクストが伝達されることは、むしろ稀なことと考えて良い。一般に伝統的都市は、そのコンテクストがよく伝達されていると理解されやすい。しかし、私たちはこれと全く正反対の主張を行いたい。
伝統都市の連続性を保証するのはコンテクストではなく、もう一方のかたちのほうである。かたちの資材性における一定の限界が、そのかたちに対するひとつのコンテクストが消滅しても、かたちの用い方に無意識のうちに枠組み(一覧表)をはめるのである。これが意識的でもないのに、都市のかたちがほぼ妥当的に継承された場合のメカニズムである。もちろん現代都市はそれを見失っているように見えるが。
この主張をつきつめれば、それは様々な意味機能の差違を保証する事物のかたち的限界(同一)性の検討へと行き着く。セベラル−ネス(several-ness, いくつか性)はそれを記述するための用語である。ゆえにそれは、事物のかたち的可変性の有限性と、同時にその組み合わせの無限性を説明する概念でもある。ここでは話を単純にするために、バケツを事例として考えよう。
(図D バケツにおけるセベラルネスと実際の用法)
バケツにおけるセベラルネスは(たたくというカリブ的転用をのぞけば)、「蓄える−かぶせる」と「運搬する−仮置きする」という二つである。それ以外の性能を考案することは非常に困難である。しかしながらその実際的な用法は、私たちが実践するように、非常に多岐に渡っている。
結論として以下のことが言える。特定の事物におけるツリー(=コンテクスト)が移行するためには、そのかたちの持つ有限性が、逆に可変のための限界的基準とならなければならない。その基準があるからこそ、転用者(ブリコルール:ブリコラージュをする主体)は、新しい要望に対してそのかたちが耐えうるかどうかを、厳密に推測することが可能となる。つまり意味や機能の移動を保証するのは、その事物における限定的性能リストなのである。その限定された性能を別の意味機能(=ツリー、コンテクスト)に接続することによって、その目的を果たすのである。


Next Keyword

『都市は連鎖する』Top Page