ここでは、先にあげた引用ノートを基本にしつつ、都市連鎖詠みのための拡張概念を提案する。その拡張性は、特に、事物の時間的変容を可能にするメカニズム解読とその実体的拡張(デザイン)に関するためのものである。
●キーワード8 弱い技術
再定義され、残り続ける技術のあり方。
都市連鎖詠みにおいては、土地のみならず、そこに建っている建造物の姿において、都市連鎖の過程を復元できる。例えば、大通りに面した建物が何故か通りに対して垂直な奥行きを持たず斜めに接していれば、それは大通りが、以前の建物の建ち方に無関係に通された結果である。このような都市の履歴を明瞭に刻みうるのは、建造物が弱い技術によって構成されていることが十分条件である。
キーワード3で示したように、かたちとコンテクストとの関係が可変的であるならば、それは応答的でもある。もしかりにある事物のコンテクストが激変した時、その事物はいったいいかなる変化を被るであろうか。もしその事物が、コンテクストの激変に対して非追従であれば、その事物は消滅するか、あるいはコンテクストに勝利して、不可侵のモニュメントとして存在し続けるであろう。いずれにせよその場合の選択は勝つか負けるかの二者択一である。逆にもしその事物の資材性(キーワード5)がより豊富であるとすれば、その事物は新しいコンテクストの要求に一定の範囲内で応えることができるであろう。
これを技術論的に考えてみた場合、テクノロジーと個別的なテクニックに相当する。テクノロジーとは技術的共同体であり、そこに内在する個々の技術の使われ方は厳格に定められている。一般に「高度」とされる現代テクノロジーが、不定期さや、突然の変化を「故障」や「ノイズ」として排除するのは、それらがテクノロジーであるためである。それに比較して個別的なテクニックは、それ自体では自立し得ず、他者とのその時々の契約関係によって用法を一時的に定める。これらは一般的に原始的な道具や伝統的な技術体系の可変性に象徴される。菅原町長屋群(中谷「都市は連鎖する」参照)で見たように、すぐにでも壊れそうな木造の伝統的住まいが100年以上の時を経て存在し続けたのは、それらの技術基盤がテクノロジーとして弱かったことによる。新しいコンテクストにあわせて自らの用法を再定義しえたからこそ、それらは様々な改変をうけつつ残存した。むしろ「高度な」技術体の方が残らない可能性がある。