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○勾配之術 勾配延ヲ知方也
假如梁間三丈{五間/ナリ}六寸勾配ニシテ宇立ヲ知ルニハ先ツ一尺ヲ為弦六寸ヲ底トシテ定尺三丈ナレハ三寸ヲ弦トシテ其底ヲ量レハ一寸八分アリ即六寸勾配ノ宇立一丈八尺ト知又
同平ノ延ヲ知ニハ勾股術ノ如ク曲尺一枚ノ短カ手ノ目通リヲ一寸八分トシテ規ノ一方ヲ當テ又一方ヲ三寸三丈ノ所ニ當テ其規ノ開キヲ見レハ三寸五分アリ即平ノ延三丈五尺ト知ル又同隅ノ延ヲ知ルニハ右ノ法ノ如クシテ平ノ延ヲ知ハ三丈ナレハ規ヲ各ノ三寸ノ所ニ當其規ノ開キヲ見ル也即チ四寸二分五厘アリ隅平ノ延四丈二尺五寸ト知ル也又隅木ノ延ヲ知ニハ宇立ノ{丈二分/タケヲフタブン}上テ規ノ一方ニ當一方ノ三寸ノ所ニ當也

<解説>この術は、梁間が三丈(=五間)で六寸勾配(横方向一尺に対し縦方向六寸上がる勾配)のとき、宇立(=束)の大きさ・平の延び・隅木延びを求める方法である(各用語については図1参照)。そのままの寸法で作図することは不可能なので、すべて1/10の縮尺で行っている。すなわち実際の単位である丈を尺に、尺を寸に置き換えて作図し、比例関係によってそのつど実際の寸法にもどしている。なお、この項目に関しては右のような図があり、内容も簡単なので詳細は省略する。

図1

○堂社繁垂木下端知寸分術
假如大間一丈二尺{タルキ}数二十四枝此{タルキ}下端大サヲ知時ハ規ヲ一寸二分{大間/ノ一}{丈二/尺}開キ二寸四分{{タルキ}数ノ/二十四}ヲ弦ト為定尺一寸ノ底ヲ量レハ五分二厘八毛アリ是ヲ垂木定法二十二ニテ除也規ヲ五分二厘八毛ニ開為底二寸五分ヲ為弦テ定尺一寸ノ底ヲ量レハ二寸二分六厘アリ即垂木下端大サト成ル

<解説>この術は堂社の柱間が与えられたときの繁垂木の下端の寸法を求める術である。二等辺三角形の底と等辺(=弦)を用いて右の図の様な手順で求めている。まず大間の一丈二尺を1/100の一寸二分に、垂木24本を二寸四分に変換することからこの術ははじまる。弦の定尺一寸を用いてその底(五分二厘八毛)を求め、それをもう一度同じ手順で用いて垂木下端二寸二分六厘を出している。詳細を以下に示す。
・左図 大間:垂木数=X:1
    X=大間/垂木数=一枝長さ=五寸二厘八毛
・右図 一枝長さ:2.5=X':1
    X'=一枝長さ×2/5=垂木下端長さ
左の図では、この二等辺三角形が除法の為に用いられていることがわかる。また、右の図は一枝長さに2/5を乗じた値が下端長さである事をしめす。すなわち、この術では
・垂木幅:垂木間隔=2:3
の関係になっている。尚、この計算方法は作図をもとにしているので、そのつど誤差が生じている。

○假如長二間木八寸角六十本有リ是ヲ同長五寸角ニ替ル時木数何本ト成ト云ヲ知ル 五寸角 百五十三本一分也
術規ヲ八分{八寸/角}ニ開キ一寸ヲ弦トシテ八分ヲ底トシ定尺八寸ノ底ヲ量レハ六寸四分アリ{即八八/六十四}是エ木数六十本ヲ乗ル也規ヲ六分四厘ニ開キ一寸ヲ為底定尺ヲ六寸ヲ為弦ト底ヲ量ハ三寸八分四厘ト成ル又五寸角ヲ乗合{々/々}二寸五分ト為テ是ヲ法ニ立テ規ヲ三寸八分四厘ニ開キ二寸五分ヲ為弦ト定尺一寸ノ底ヲ量レハ一寸五分三厘一毛アリ即五寸角ニテ百五十三本一分ト成ル也

<解説>この術は八寸角で二間の長さの材木六十本を、五寸角・二間の材木に変換すると何本になるかを求める術である。内容を単純にすると以下のような計算式である。
・8寸×8寸×60本=5寸×5寸×X本(Xが求める本数)
本文を図にすると右のような三つの段階に分けることができる。以下詳細に述べる。
・上図の内容(八寸角の断面積=一辺×一辺)
 0.8:1=X:8 → X=8×0.8=6.4
・左下図の内容(八寸角の断面積×本数)
 6.4:1=X':6 → X'=6×6.4=38.4
・右下図の内容(左下図の解答÷五寸角の断面積)
 38.4:2.5=X'':1 → X''=38.4/2.5=15.31
答は153本と1分(1/10のこと)である。この計算式を見ると、前二図は乗法であり、後一図は除法であることがわかる。尚、この術も作図で計算を行っているため、誤差が生じている。

○差分之術
假如長二間木一間木相交テ数百二十本アリ是ヲ間ニ延テ百七十間ト成ル凡内二間木何本一間木何本アルト云ヲ分知スルニハ木数百二十本ニ二間木ヲ乗ル也即規ヲ一寸二分{百二/十本}ニ開一寸ヲ為弦定尺ヲ二寸ノ底ヲ量レハ二百四十間トナル此内ニテ延タル間数ノ百七十間ヲ減ルハ七十間ト成即一間木ノ数ト成ル残テ五十本ハ二間木ノ数ト成ル也

<解説>この術は長さが一間と二間、二種類の木が計120本あり、その合計長さが170間あるときの、それぞれの本数を求める術である。いわゆる連立方程式(=鶴亀算)である。解き方は、まず、すべて長さ二間の木と仮定すると240間になる(この部分の乗法は作図を用いているが、前問と同じ作図法なので省略する)。そこから実際の合計長さ170間を引いた残りの長さ70間がそのまま一間の木の本数70本となる。そして最後に合計本数120本からさきの一間の木の本数70本を引いた50本が二間の木の本数になる。
しかし、この方法は普遍的ではない。現実的ではないが、例えば四間と六間の木が計10本あり、その合計長さ50間のときを考える。記された方法のように、すべて六間の木と仮定すると、6×10=60になり、そこから50をひくと10になり、合計本数の10本すべてが四間の木となる。しかし、それだと合計長さが40間になり矛盾する。

○材木知價術
假如材二丈六尺アリ此價七十五匁也ト云其内六尺五寸〓テ換ル{トキ}此代銀ヲ加ルニハ二寸六分{二丈/六尺}ヲ弦ト為シ七十五匁ヲ底トシテ定尺六寸五厘ヲ弦トシテ底ヲ量レハ十七分八厘五毛アリ即代銀十七匁八分五厘ト知ル或ハ七寸五分ヲ弦トシテ二寸六分ヲ底トシテ定尺規ヲ以六分五厘ニ開キ等弦ヲ求ルモ又同術也{一寸七分八厘/五毛トナルナリ}此術モ数ヲ得ルニ分秒多クシテ見ヘ難キ{トキ}ハ二十六分ヲ一位進メテ二尺六寸トシ{一寸/一尺}七十五分{一分/一匁}ヲ倍シテ一尺五寸トシテ量ルモ又可ナリ又本文ノ如ク量テ分秒分明ナラサル{トキ}ハ先ツ五寸ノ代銀ヲ量リ数ヲ得テ再ヒ六尺ノ代銀ヲ量テ合之テ知ルヘシ

<解説>この術は、二丈六尺あたり銀七十五匁の材が、六尺五寸あたりいくらの銀に値するかを知る術である。この術のこれまでの術と同じように二等辺三角形の相似を用いて作図することで解を得る(図は省略する)。解法は以下の二種類が用意されている。
 ・解1)弦:底=二丈六尺:七十五匁=六尺五寸:X匁
 ・解2)弦:底=七十五匁:二丈六尺=X匁:六尺五寸
この二種の違いは弦に材の長さを、底にそれに相当する銀の量を対応させるか、あるいはその逆かの違いだけである。しかし、実際に作図をするとなると、解2の方法は弦の長さをXとしているので、作図が正確に出来ない。
本文では、作図結果の目視が困難なときは、10倍するか、二倍して量っても構わないとしている。あるいは六尺五寸というもとめる材の寸法がややこしいときは、まず、五寸の長さの材がいくらかかるかを求め、続いて六尺の材がいくらかかるかを求め、それを足しても構わないとしている。