平成 14年 2月 20日中谷礼仁記
ここではこれから執筆することになる卒業論文とは一体何者であるかを、かいつまんで説明します。
●学術論文の位置づけ
卒業論文は学術論文の一つにあたります。では学術論文とは、建築史研究の場合ノ
・大学が発行元となるもの
博士論文、修士論文、卒業論文
・しかるべき学会にて審査を経て、公開を許されたもの。
日本建築学会論文報告集(いわゆる黄表紙)
建築史学会査読論文
住宅総合研究財団年報・助成研究報告集 ノここまでが研究者としてのキャリアになる
日本建築学会支部報告集(黄表紙と慷慨の間に位置するもの)
日本建築学会大会学術講演集慷慨(本来的に学術論文とはいわないが、それに準じるもの) ノ練習と補佐的なキャリアになる。
・そのほかの論文
様々な建築界雑誌への寄稿、懸賞論文(『建築文化』の年一回の懸賞論文が有名)ノ研究者としてのキャリアにならないが、より本質的なことを提起する場合にこちらの方がいいこともある。
だいたいの見取り図●卒業論文は論文生活の始まりであるから、人間社会を揺るがすようなことを書けるわけではないとあきらめて、目的を絞りましょう。
・(テーマは二の次で)学術論文のイロハ、可能性と限界を徹底的にこなす(修士論文で崩せる)。
・自分の気になったことを、自分に程よいバランスで、そつなくこなす。
いずれも両極端ですから、この間を狙うのがいい。
また学術論文は形式の美であるから、これまでのものをさまざまに利用できるようにするのが、いい。
自分らしさは形式に宿す。
●学術論文形式の基本原則
・誰であろうとも、同じテーマに対して、同じ手法で取り組めば、必ず同じ結論に達するノ科学合理主義
手法、引用に対する客観的な提示、透明性が必要
誰にでもわからなくてはいけない。説明不足、自己満足厳禁。
・すくなくとも何か一つ(対象、テーマ、手法など)において、世界初のものが含まれていること。
たとえば「私の家の裏庭の納戸について」という論文もありうる(対象物の新奇性)。
しかしながら前項とのかねあいによって、そのような個的テーマが普遍性を持ちうるような、記述手法をともなっていなければならない。
これをうまく利用したのが、ちょっと前にはやったウルトラマン研究序説とか磯野家の謎
どんなしょぼい対象でも普遍的な記述で論文になる。
● ソース(資料)に勝つものすべてに勝つ
どんなに研究心があろうとも、研究する対象がなくては話にならない。研究するにたる資料を持つ対象を見つけること。
例)建築実体とその書類、未翻訳の本などなど。
・建築史として必ずチェックしなくてはいけない資料
日本建築学会発行の前記学術論文の類似研究すべて(必須)、同じことをやると笑われます。目録集、ホームページで検索も最近の分はできますから、必ずチェックすること。
・論文は特許のようなものです。自分で調べなくてもすでにあるときはそれを使う(必ず引用もとを記す)。
すでにある研究を自分の興味の部分に置くことによって、やられていない部分を純粋に取り出すことができる。
・ちょっとしたヒント
優秀な論文とは、引用先の扱いが正当なもの。そういう論文の註を見ると、さらに必要となる基本文献が書いてあって、さらにそれを見ると、さらに必要な文献が書いてあるというように芋づる式にチェックできる。だいたい一つの研究で読まなくてはいけない本、論文は、二十冊から五十冊ぐらいと考えておくとよい(卒業論文の場合)
●そして一番大事なことは、今現在その研究を発表する意義についての、現在的なセンスがちゃんと含まれていることです。
それでは、執筆頑張ってください。