2005年3月16日、大阪市立大学において「田園になお住まう 小規模分譲住宅(ミニ開発)設計競技」審査会・表彰式が開催されました。
中谷(司会) まず全体的な総評からお願いします。
前川 「くもがくれ」(大竹・西本案)、「エンプレス浜寺」(土山・松本案)は、対象敷地の問題だけでなく都市的スケールまで発展させた提案であり、大変興味深かったです。しかし後者は、道のつけ方が安易かなと思いました。その後の都市発展のキーとなるかは疑問でした。その点前者は、今後都市を補正する基点としてうまく提案されていたと思います。
福島 非常に面白い課題だと思います。「くもがくれ」は、将来性を考えている点で評価できます。ただ、めくら壁が多く、プランが1軒ごとに完結しているように感じられる。隣との関係をもっと考慮に入れることはできたのでは。植えた木によって、日照が悪くなる事も考えられます。「エンプレス」は、考え方は面白いのですが、一見の見た目が今までのミニ開発なのが残念ですね。狭くて、住みにくくユーザーの利点も分かりにくいです。
岡田 いずれも興味深い案です。「くもがくれ」は、地域特性を敷地割以外に緑地にまで活かすように考えられていた点が良いと思います。「エンプレス」は、周辺の地域特性を真ん中の道を通す以外に読み込めると、良くなったのではないでしょうか。「お屋敷に住みたい」(浅見・井上案)は、実現可能性が高そうですが、3つで一つに見せたい以上の部分をもう少し見たかったと思います。
審査風景1
3つのバランス
中谷 ありがとうございます。では、ミニ開発に求められる設計の要点を審査員の方から提案していただきそれらを考慮に入れた上で、これらの案を見直してみたいと思います。『10+1』掲載「オバケミニ開発」担当者の福島さんから、何か要点を提案いただけませんか。
福島 大きく3要素あると思います。ミニ開発を求める住み手、開発業者、まち の3つです。住み手にとっては、何かと便利な都市での生活と、小さいながらも戸建てを得るという満足。業者にとっては、法規をクリアできた上で、土地購入から住宅の売却までの流れが短縮できるということ。現状のミニ開発では、主にこれらの2点が重視されているのだと思います。しかし、もう一つ必要なのがまちの視点です。現状では、個性をアピールしようという意思が働きすぎているため、周囲から浮き上がったユートピアが出来上っていますが、むしろまちに溶け込む方法を模索する方がよいのではと思います。そこの環境が良ければそれに溶け込む、悪い環境ならば良くするように貢献する。いずれにせよ、周囲との関係は考慮すべきです。住み手、業者の利点を生かしながら、どのようにまちに対して貢献できるか。これらの3つのバランス関係が、重要だと思います。(図1)
図1 住み手、開発業者、まちの3つのバランス
大竹 コンペに参加してみて、設計者側からはまちに対する考えは取り入れやすかったけれど、業者の立場は考えにくかったというのが感想です。
前川 その3つのバランス関係で考えると、「まち」への提案としての道路計画が、ただの車の道として提案されているのではなく、最初は路地空間として使うことできる「住み手」に対する利益の上で提案されている点で、「くもがくれ」は評価できますね。
中谷 時間性が付与されている。
井上 先ほどの3つのバランスという視点から私たちの提案(「お屋敷に住みたい」)を振り返ると、開発業者、まちのニーズに対する提案はできたと思います。ただ歩く人から見た景観から、壁を決定したために、居住者のニーズがもっと重視できればよかった。
福島 「お屋敷に住みたい」は、平等に敷地が割られ家が建てられているので、業者の立場から見れば一番実現されそう。
中谷 開発者のニーズと、まちへの貢献を一緒に実行することは難しかったですか。
井上 「お屋敷に住みたい」は、土地の均質性を保持しながらできる案です。歩いている人にとっての見え方を考え、壁の流れなどをつくりました。
中谷 提案では土地割は均等に三つ割っていますが、たとえば鍵形に組んだような土地割りでは、駄目なのでしょうか。「お屋敷に住みたい」では、視線が抜けてしまっているところが問題ですね。(図2)
図2 「お屋敷に住みたい」住居間の様子
岡田 門などを使う事によって、単調な敷地割をどうにかできないでしょうか。
中谷 歩く人にとっての見え方というのは、端的で良いと思います。
前川 設計で重要なのは、間のデザインだと思うんですね。「エンプレス浜寺」は、せっかく抜き取ったスキマがもったいないですよね。あけるならあける、閉じるなら閉じるというのが重要なんじゃないでしょうか。
転売の可能性
中谷 岡田さんが考えられる、ミニ開発での設計要点とは何ですか?
岡田 安く買えるということ。利用者にとっては、費用が大事な問題だと思います。
中谷 価値があがるあるいはさがらないというのでは、違いますか?
岡田 この値段で、ここまで!というのが欲しいですね。
中谷 例えば、このように敷地はまっすぐ割られていても、空地を共有するような建て方はできますよね。(図3)
図3 空地を共有する建て方
松本 現在のミニ開発は、塀がたっているか塀を立てる事ができないくらいのどっちかですよね。
中谷 景観上の共有ができるんじゃないでしょうか。ただ一方で、それすらしたくないという場合もあるのでしょうか。
井上 隣人とは利害関係があるので、なかなか共有するというのは難しいですね。
中谷 二軒先の隣となら共有できるかな(笑)。
前川 「二」で関係性をつくると危ないということですね。
福島 でも、二以上の関係性をつくってどれとも上手くいかないと四面楚歌ですね。
中谷 村八分ってことですね。司会者なのですが、少し論議に参加すると、ミニ開発で、他に重要なのが転売できるということだと思います。転売可能性。ミニ開発の住宅は、終のすまいではない。次の人が、買えることが大事。
前川 そうなると、土地の形状が難しい物は、転売しにくいですね。
福島 「くもがくれ」では、土地の形状が複雑ですから、その実現には特殊はコミュニティが必要そうですね。
前川 基本的にミニ開発は完結しているところがあるから、次に他人が入るのは難しい感じがしますよね。「くもがくれ」は、転用可能性の面からみると難しいのではないでしょうか?
大竹 今回の提案を、コーポラティブ建て売りとすれば、どうでしょうか?コーポラティブマンションでは垂直的な交叉が起こってきますが、それをあえてせずに転売しやすくする方法ですね。各住宅は戸建てなので、一つの自立性を持つ事はできます。そこに、コーポラティブ住宅のような、コミュニティのルールも附帯させるという折衷案。
審査風景2
間合いの取り方
中谷 前川さんはミニ開発における設計の要点をどう考えていますか?
前川 周囲とどういう風に距離感を保つのかつまり、間合いの問題はミニ開発においては非常に重要だと思いますね。
中谷 間合いの取り方には、どのような計画が考えられるのでしょう?
福島 すべての玄関が鉢合わせになっているのは嫌ですよね。入り口は鉢合わせない。
中谷 たとえば緩やかに私有を表現する、塀なしの門はどうでしょう?
前川 神社の鳥居みたいなものですよね。それはミニ開発にとって有効な境界のつくりかたになると思います。塀はなくても、門があることによってある程度の境界はわかりますよね。
中谷 今のミニ開発は、境界がリジッドすぎるんですね。
前川 そうですね。それがミニ開発特有の自閉的なコミュニティを作りあげている原因のひとつだと思います。結局リジットな境界を設けるのは自分の土地が他人に占領されるのを回避するためなのだけど、一時的な占領、つまりただ他人が歩くとかそういう程度なら気にならないと思います。流動的な占領を許容する境界づくりが必要だと思います。
中谷 あと、裏口を設けるのはどうでしょうか。長屋には裏口があって、それは何かあった時にやはりとても安心なんですね。玄関がひとつだけということだ けで僕はマンションに住みたくなかったりする。つまり二面が道に面するのが重要。
前川 住民には表の顔と裏の顔が必要ですね。
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