以下にそれぞれの作品の講評を簡単にまとめます。
・堀野作品
総体的にバランスのとれた評価を得た作品。建築の捉え方において、現代的なセンスがあり、それがう
まく表現されていたといえる。しかし、例文は自分で考えたのではなく、他から持ってきたという点は
残念である。
・米田作品
建築は何故2文字なのか?という点に注目したのはおもしろい。出来たかたちは美しいが、字体を変え
ると美しくなくなるのではないかと思われる。字体に関して、現代的ではなく古代的であるといえる。
・酒井作品
既存の漢字を少し変化させ、新たな意味を付けたことと出来た字のイメージが一致している点が評価で
きる。しかし、田の中に田という字が建築を意味するのかという点は疑問が残る。読み方について新た
な提案がされていない。
・山田作品
「シュアン」という読みは評価できる。また、例文も多くあり、字の使われ方がよくわかる。しかしな
がら、出来たかたちに関して、直線を途中で中断させなければならないというシステムは書きやすさに
おいて大減点。
・鈴木作品
「オーエン」という読みはすばらしい。しかし、出来たかたちは美しいとは言えない。理論が先行しす
ぎて字として事物化するプロセスが少なかったのではないかという指摘があった。
・田部作品
字の成り立ちは良いが、建築を表すもとの絵から字への変化に欠けているので出来上がった字の美しさ
がない。また、音に関して「そうす」は良いが、「バランス」という読みには疑問が残る。
・船橋作品
論理が先行し、かたちに落とせなかった作品であるといえる。書けない一文字が、まず文字として成立
しているのかという疑問がある。さらに建築を多義的に捉えていたのにもかかわらず、できた一字をパ
ソコンの一つのキーにあてはめるという一義的な扱いをしている点も気になる。
・まとめ
この課題は、今回が初の試みであった。提出された作品は大きく二つに大別することができる。一つは
字として成立しているもの。もう一つは字として事物化するに至っていないものであり、前者は3桁、
後者は2桁という審査結果が端的に表している。これら二つの区分は次のように捉え直すことも出来る。
前者はものを作る時にすでにあるものを用いて新しいものを作る、後者は始めからすべて自分で作りだ
そうとするものである。前者の例を挙げると、堀野作品は「疑」と「気」、米田作品は「建」と「築」、
酒井作品は「田」と「街」を用いて新たな文字を成立させている。一見すると前者はすでにあるものを
用いることで制限があり、後者は自由で、限界がないように思われる。しかしながら、実際に提出され
た作品を見ると、後者に比べ前者の方が発展的で、多様性があるように思われる。これは一文字を全体
として捉えた時、その文字を構成する部分の組み合わせは、無限に近いものと考えられるからである。
また後者の作品については、新しいシステムが提案されている点においては評価することができる。例
えば、山田作品は、5つの点を決定しそれらを直線と曲線で結ぶというシステム、船橋作品は、建築を
取り巻く概念を言語化し、それらを重ね合わせ、その密度により文字を成立させるというシステムであ
る。しかしながら、字としての基本的要素である書くという行為において書きにくい・書くことができ
ないということ、すなわち誰もが用いることが出来るという汎用性の欠如が審査結果に表れていると言
える。
既存の様々な要素を組み合わせ新たな事物を作りだすこと、これがまさに建築であり、この課題が意図
するものである。途中段階といえる作品は、今後のリファインを期待する。
(文責中谷ゼミナールM1松本)