大阪市立大学工学部建築学科

2005年度 設計演習 「展示を科学する」最終講評会

7/12(火曜日)に多くの先生方を招き、設計演習「展示を科学する」第二課題の講評を行いました。
参加して頂いた講評者
岡崎乾二郎(近畿大学国際人文科学研究所)徳尾野徹(大阪市立大学) 杉山茂一(大阪市立大学)
三谷幸司(三谷都市建築設計室) 横山俊佑(大阪市立大学) (五十音順)

講評会風景

岡崎先生・中谷先生に講評を受ける学生
「展示を科学する」
この課題は広義な意味での美術館の設計です。敷地である天王寺周辺で発見してきた好きな物や面白い物を分析し展示することが目的です。学生が発見してきた物は、展示物・空間・素材・状態など様々であり、それらを建築的なものへと変換し客観化することで、他者との共有を可能にしなければなりません。
今回の最終講評会で評価を得た作品を、先生方の講評を付け加えて、以下に掲載します。

動から静へと文化を渡る

電気街で有名な日本橋筋の一角に、寺や民家が僅かばかり残っており、その様子を展示する。経路は、電気屋から始まり、橋を渡ると茶室・図書館・寺の本堂へと至る。

講評
「日本橋には元々芝居小屋があって、次に古本屋が多くでき、現在電気街になった、という歴史的背景がある。この作品では、まず電気街を抜けて、二層が本屋、茶室に橋が架かっていて、ちょうどそれが芝居小屋のようになっている。つまり、この空間自体が日本橋の博物館になっていて、それでいて機能がある。美術館的な機能を持ち、場所の歴史的な地層を表している。」「道路からビルに入って、橋を渡って寺に到るという非日常的な行為であることを、もっと図面で表現して欲しい。」

夕陽ケ丘広場

20mにも及ぶ長い壁面に残るボールの跡。壁面の一部を取り払うとその長さは60mへ拡張する。その壁に沿ってボールを投げるための空間を提案する。

講評
「座禅しながら、そこからボールを投げるような絵があれば良かった。」「コンクリートの壁は庭にとって重要で、そのための庇が何十メートルも続いているという新しい庭。」

屋根を持ち上げる事で生まれた光に

木津市場の中を南北に走る細長い通路。そこに立つと出入り口から入る光に視線が向う。その視線の抜けを活かした展示方法を提案する。現状の問題となっている市場の空き店舗を、貸しギャラリーとして利用する。

講評
「パッとしないものかもしれないけど、くまなく説明することで他の作品よりも美術館としての説得力を得ている。」「建物への光の入り方が絵に出ていれば良い。」

講評会の最後に総評をいただきました。今回が最終講評だったということもあり批判的な意見が幾つかありました。

「面白い場所や物を探して来てはいるが、それらを十分に読み取ることができていない。ほとんどの作品が、どこに作っても良いようなものになってしまっていた。」
「科学するということをきっちりと考えた人(発見してきた物を着実に読み取っている人)の作品は良いものになっている。面白いものこそ着実に考えなければならない。」
「美術館というものは、美術を美術として、芸術を芸術として説得する、公共化すること。それが今回に課題の主旨だったが、それは建築を建築とすることとほぼ同義だった。
けれどもほとんどの作品が、どこかで "建築らしさ”というものを前提としていた。発見してきた物に自信がないと "らしさ”だけを作ってしまう。だから根拠なく、ただ自分が作りたい形態へと一気にとんでしまう事になる。」
「我々は既に建っている建築物を見て、それらは無意味ではあるかもしれないが、それでいて納得してる。そういった様々なレファレンスに対するボキャブラリーが足りない。それは、説得力の無さにも、図面表現の悪さにも繋がること。」

今回の最終講評会では、多彩な先生方に講評して頂きました。そこには、作品を批判するだけでなくそれをさらに展開し、作った学生本人にさえ気がつかないような指摘が多くありました。学生たちには、今回の指摘を受けてさらなる展開を期待します。