今回見学したのは壮大な自然に囲まれた金刀比羅宮で、香川県の琴平山の中腹を
切り開いてできた神社である。鈴木氏によりその斎館棟・授与所棟の改修され、共
に社殿ゾーンから岩盤を切り下げて人工地盤を設け、その上層に伝統的な空間と地
下層には現代的な空間が広がっているというものであった。
この建築空間を特徴づけているものは、斎館棟の地下層のスペースであろう。そ
れは階段の下の空きスペースであったり、天井付近や各部屋間の抜けといったもの
で、それらが人工地盤をくり抜き三次元的につながり、内部で広がっていく空間を
生み出している。そして、ひとつとなったその内部空間は外部とは性質の違い、対
比的なものとなっていて、そういう類いの空間は当然上層のそれとも違ったものに
なっていた。しかし、それぞれの空間は曖昧な領域である中庭の存在によって、互
いの空間をゆるやかに結びつけられているのである。
そこで、この特徴から設計者である鈴木了二氏が建築に対するどのような考えを
持っているのかを導きだしてみよう。この地下空間で鈴木氏の考えが感じ取りやす
いのは写真の階段であり、この上下・表裏には外部と内部が対になっているのが分
かる。この人工地盤には至る所にスリット状のガラスが取り付けられており、もち
ろんこの階段にもそれはある。このスリットはおそらく、上層の外部と地下層の内
部を意識を強めさせるものとしてあるのであろうが、鈴木氏はそれだけではなく、
各々を意識させ、つなげるためにあの不可思議な中庭を配している。
それは、鈴木氏がそのような実体を見のがさない優れた勘と、それを押し広げる
強い思考力を備えた建築家であったから実現した空間なのである。おそらく、外部
と内部の接続装置は、視覚的にはスリットを感じるのであるが、実質的な効果は中
庭の方にあるのであり、鈴木氏は事前にそのことに気付いていたのではないだろう
か。