早稲田大学 中谷礼仁建築史研究室

"Nakatani Seminar", Department of Architecture, Waseda University.
建築史、建築理論、歴史工学研究
Architectural History, Theory, Sci-Fi Architecture History

Outtakes

自分の地図作りのための推薦図書シリーズ

中谷礼仁
(2000年ごろに作ったリストをフォーカスしてアップデート 2024年4月27日)


はじめに
本は世界の断片。何から読めば良いか。
本から世界を知るためには、世界をつくるように地図的にその本を配置すること。
自分の世界の地図作りのポイントとして起点となる本を選んでみた。少し前の本も入手困難なことがあるが、古本屋、図書館を活用すべし。
新しい書籍も古い書籍も、その内容が大事なのであって、新しいからいいというわけではない。
*自分の地図作りの実践例→『実況 比較西洋建築史講義』『実況 近代建築史講義』中谷/インスクリプト/2020。
*個人向けデジタル化資料送信サービス
(https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/individuals_index.html)。
*は中谷、中谷が関係した書籍。
◎まず挑戦してみて。
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● 世界とは何か
最も重要な白地図。とっつきにくいところもあるのでベイトソンが良いかと思います。
『資本論』K・マルクス/岩波書店/1969 経済構造の探偵小説
『純粋理性批判』『判断力批判』そのほかE・カント なるべく訳の新しいものを、定評ある入門本でもよし。人間の知覚の構造を徹底的に。
『現代棟梁 田中文男』INAXギャラリー/1998 建築実践のための生きたガイドブック。
◎『精神と自然:生きた世界の認識論』グレゴリー・ベイトソン/思索社/1982年 カントを現代理論につなげた奇跡の書。
『遊動論』柄谷行人/文藝新書/2014 提唱された交換様式の最も基本的な部分が抽出(付論・たった数ページ!)されている。
 
●大地
実体的な人工物を考える時の基礎となる。スケールの違い、専門用語にやや苦労するが、収穫は大きい。
◎『土地に刻まれた歴史』古島敏雄/岩波新書/1967 時代ごとの開発技術をベースに歴史的空間の層を読み解く。
『歴史の空間構造』藤岡換二郎/大明堂/昭和51 地理と社会の関係を形を通じて分析する人文地理学の入門編。
『日本の地形』貝塚爽平/岩波新書/1972 名著と言われる。学説をわかりやすく説明。体験的ではない。
『石と人間の歴史』蟹澤聰史/中公新書/2010 素材と建築の関係の読み解き方。ネットに関連記事があるので読んでみてください。
『日本列島はすごい』伊藤孝/中公新書/2024 高校地学とオープンソースをもとに具体的な環境的疑問を見事に解いていく。
・そのほかわかりやすい高校の地学の教科書を推薦します(カラー口絵多数のもの 例『カラー版徹底図解 地球のしくみ』新星出版社など)。
*『動く大地 住まいのかたち』中谷礼仁/岩波書店/2017 プレート教会の住まいの構築方法や土地の文化に潜む大地からの影響を旅行記的に。
 
●かたちと建築
妙に軽くなってしまったアートの知られざる本質。芸術的構築物に内在する驚異的深度を体験できる。
『ルネッサンス 経験の条件』岡崎乾二郎/筑摩書房/2001 カント+歴史+芸術 絵画に込められた世界観の驚異的分析。
◎『形の合成に関するノート+都市はツリーではない』クリストファー・アレグザンダー/鹿島出版会/1978 全く無駄のない集合理論による生き生きとした現実理解。奇跡的。
『時のかたち』G.クブラー/鹿島出版会/2018 中谷共訳 地図的思考の源泉。人間を媒介し、超えて展開するかたちの運動。
『都市の建築』アルド・ロッシ/大竜堂書店/1991年 都市の先行形態がいかに芸術の源泉か。
*『severalness +ー事物連鎖と都市・建築・人間』中谷礼仁/鹿島出版会/2011 自分なりにこれらを建築都市の観点から統合したもの。
 
●日本の住宅+
◎『住宅近代史-住宅と家具』太田博太郎/雄山閣/1979(図説日本住宅史/彰国社/1971) 太田博太郎は住宅建築史が一番具体的かつわかりやすい。これ基本。
『住まいの人類学-日本庶民住居再考』大河直躬/平凡社/1986(中古) 玄関、縁側など今では機能がわからなくなった建築要素の生き生きとした使われ方を復元。
『日本の民家-田園生活者の住家』今和次郎/鈴木書店(再版:岩波文庫)/1922 住まいを人と環境の交点として捉えた実に染みる書籍。当時の人文地理、都市理論なども背後に流れる。
『昭和住宅物語-初期モダニズムからポストモダンまで23の住まいと建築』藤森照信/新建築社/1990(中古) 建築史家はここまでやらないと。
『日本の現代住宅1970年代』植田実/A.D.A Edita(GA houses4)/1978(中古) 建築設計にとって若手とは。7-80年代の「野武士」世代のドキュメント。比較対象として重要。
『日本の住まい 内と外』E.S.モース/版多数(中古) 外国人博物学による繊細な日本人の住まいの分析。
*『未来のコミューン』中谷礼仁/インスクリプト/2019 共同体のつくられ方を加えた住宅・都市論。独自回路の考察多数、インディー系。
 
●日本建築
(とりあえず教科書的な知識を通過して退屈している状態で読みたい)
◎「工業化への道」渡辺保忠/不二サッシ/1962 日本建築をその作られ方、生産組織から検討。ほんの数ページで日本建築史の地図ができる。建築家の位置付け。
 「建築設計技術の変遷」中川武(『講座日本技術の社会史7 建築』/日本評論社/1983に所収) 伝統には設計術が潜む。その時代を超える方法について検討。建築設計とは何か。
『日本建築の空間』井上充夫/鹿島出版会/1979 日本建築を空間モデルから解説。孤高の書籍。
『図説茶道体系4 茶の建築と庭』角川書店/昭和37 入手困難だが隠れた名書。堀口捨己、稲垣栄三、中村昌生がライバル執筆。
 
●野外調査(フィールドワーク)
(これはまず持っておきたい→『図集日本都市史』高橋 康夫[ほか]編/東京大学出版会/1993)
フィールドワーク入門『SD』特集 入手困難だが非常に具体的に採取方法やデザインとの意義が語られる。
『日本の都市空間』伊藤ていじ他/彰国社/1976 磯崎新、富田玲子も参加。日本の伝統都市のデザイン側面からの理解。
『路上観察学入門』路上観察学会/筑摩書房/1993 藤森照信、赤瀬川原平、荒俣宏。路上の巨人の交流から展開する路上の風景。
*◎『今和次郎 日本の民家再訪』瀝青会/平凡社/2011 90年前の庶民の小屋は現在でも残っているか。その探索方法のショウケースとして読んでほしい。
 
●世界史
『歴史』ヘロドトス/岩波文庫/1971 世界現存最古の歴史文学 初めから面白い。
『ゾミア』ジェームス・C・スコット/みすず書房/2013
◎『反穀物の人類史』同2019 少数民族と高地、沼地と島としてのメソポタミア。
『近代世界システム』イマニュエル・ウオーラーステイン/岩波書店/1981 資本主義社会の基本メカニズムの解明。
『技術の歴史』R.J.フォーブス/岩波書店/1956 これにシリコン革命を足したら最高。
 
●日本文化
『日本の名著 本居宣長』石川淳編纂/中央公論社/1984 とにかく本居宣長の日本読解の再検討なしに日本文化構築はありえない。
『中世の文学』唐木 順三/筑摩書房/1960 すき、すさび、さびの三段論法分析。 目から鱗。
『日本の思想』丸山真男/岩波書店/新書版1961 近代知識人批判の雛形。
『日本近代文学の起源』柄谷行人/講談社学術文庫/1988 風景をどうみるか。近代人のみる風景はどのように物語化しているか。スリリングな探偵的分析。
「日本のナショナリズムについて」「転向論」「擬制の終焉」吉本隆明/『吉本隆明著作集』」13政治思想評論集/勁草書房/1969
「日本文化私観」坂口安吾/角川文庫『堕落論』に所収/1969
 
●その他歴史系で若い頃参考になったもの
『建築史の先達たち』太田博太郎/彰国社/昭和58 孤高の建築史家の生き方。染みる。
『建築の世紀末』鈴木博之/昌文社/1977 歴史を自分の問題として語る最良の成果。
『日本建築宣言文集』藤井正一郎・山口廣編/彰国社/1973 各時代の若者が何を考えていたか。
『建築美論の歩み』井上充夫/鹿島出版会/1991 建築に関する美学をまとめて知るには最も優れている。世界的にもないと思う。
『民族建築住まいの民族建築-江南漢族と華南少数民族の住居論』浅川滋男/建築思潮研究所/1994 古代的アジアの住宅世界をまざまざとみせつける。
『水の神ナーガ-アジアの水辺空間と文化』スメット・ジュムサイ/鹿島出版会/1992 東南アジアの水神ナーガが生活文化にどのように刻まれているか。そのバラエティの考察。
『古寺解体』浅野清/学生社/1969 痕跡調査による建築復元技法を確立した著者の青春記。
『文化遺産をどう受け継ぐか』稲垣栄三他/三省堂/1984 稲垣栄三先生の最もピュアな保存論。ほぼ心の叫び。
*『戦後空間史』戦後空間研究会/ちくま新書/2023 地図的建築史の試み。